【健康情報等の取扱規程】ひな形の「健康情報等」とは?社労士が徹底解説(2)

2019年4月から、従業員の健康情報を取り扱うすべての事業所に「健康情報等の取扱規程」の作成が義務付けられました。

同時に、厚生労働省から「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」が出され、ひな形が掲載されています。

しかし、このひな形では、どのような会社でも使えるように汎用性が広く作られており、ご自身の会社でどのようにカスタマイズしていいのか、判断が難しい条項を多く含んでいます。

また、ひな形の中には労働法令なども引用されており、非常に読みにくい内容にもなっています。

中でも、このひな形を使ってご自身の会社の規程を作ろうとした場合、最初に出てくる(第2条の別表1)「健康情報等」の具体的内容が実際どんなものを指しているかわりにくく、先に進まなくなってしまう方が多いのではないでしょうか?

この記事では、健康情報等の具体的内容に絞って、社労士が詳しく解説していく2回目です。 

参考:「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」はこちらからダウンロードできます(厚生労働省HP」

2回目の今回は、第2条の別表1の④から解説していきます。

健康情報等の具体内容「保健指導」とは

まず、④の「保健指導」ですが、根拠をたどると非常に複雑で、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」というものがあります。その基準の中に、保健指導の対象者が出てきます。

その対象者とは、

  • 腹囲が85センチメートル以上である男性
  • 腹囲が90センチメートル以上である女性
  • 腹囲が85センチメートル未満である男性若しくは腹囲が90センチメートル未満である女性であってBMIが25以上の者のうち、次の各号のいずれかに該当するもの(高血圧症、脂質異常症又は糖尿病の治療に係る薬剤を服用している者を除く。)とする。
    • 血圧の測定の結果が厚生労働大臣が定める基準に該当する者
    • 血清トリグリセライド(中性脂肪)又は高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)の量が厚生労働大臣が定める基準に該当する者
    • 血糖検査の結果が厚生労働大臣が定める基準に該当する者

対象者の基準をご覧になっていただくとわかるように、いわゆるメタボリックシンドロームのリスクがある方などです。

そこで、安衛法第66条の7の内容を見ると、

「事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。」

つまり、健康診断によりメタボのリスクが認められる方に対して、事業主がおこなった栄養指導や情報の提供をしたこと、となります。ただし、保健指導はあくまでも努力義務ですので、事業主が必ず行わなくてはならないわけではありません。

④-1は、保健指導の有無ですので、保健指導を労働者に対して行ったか行わなかったか、すらも「健康情報等」に含まれることになりますので、注意が必要です。

【働き方改革】で変わる「面接指導」の対象となる労働者

⑤では、「安衛法第66条の8第1項(第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項)の規定に基づき会社が実施した面接指導の結果及び同条第2項の規定に基づき従業員から提出された面接指導の結果」となっています。

この中に出てくる「面接指導」ですが、安衛法第66条には「労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者」に対して行う医師の面接指導のことを指しています。

この厚生労働省令で定める労働者とは、労働安全衛生規則の第52条の2第1項等(ややこしいので省略します)に出てくる労働者を指します。

具体的には、

高度プロフェッショナル制度適用者以外の労働者・月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者で申出をした者
・月80時間超の時間外・休日労働を行った者で、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努める
・事業主が自主的に定めた基準に該当する者
研究開発業務従事者・月100時間超の時間外・休日労働を行った者
・月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者で申出をした者
・事業主が自主的に定めた基準に該当する者
高度プロフェッショナル制度適用者・1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について月100時間を超えて行った者
・1週間当たりの健康管理時間が、40時間を超えた場合におけるその超えた時間について、1月当たり100時間を超えない高度プロフェッショナル制度適用者であって、申出を行った者については、医師による面接指導を実施するよう努める
・事業主が自主的に定めた基準に該当する者

となりますが、ほとんどの会社の場合は、月80時間を超える時間外勤務をしている労働者と考えればよいでしょう。

2019年4月からの働き方改革関連法案の施行により、これまで月100時間超えの労働者が対象でしたが、高プロと研究開発業務以外の労働者は、月80時間超えになりました。

同時に、該当する労働者が、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したものも、面接指導の結果として取り扱うことになります。

⑤-1は「上記の労働者からの面接指導の申出の有無」とあり、⑤に該当する従業員からの面接指導の申し出をしたかどうかについても、「健康情報等」になりますので、取り扱いには注意が必要です。

面接指導実施後の措置の内容

⑥は「安衛法第66条の8第4項(第66条の8の2第2項、第66条の8の4第2項)の規定に基づき会社が医師から聴取した意見及び同条第5項の規定に基づき会社が講じた面接指導実施後の措置の内容」とあります。

まず、前半の「会社が医師から聴取した意見」ですが、安衛法第66条の8第4項には「面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。」とあります。

⑤の該当者(主に時間外勤務80時間超の労働者)が医師による面接指導を受けた後、会社は医師から「労働者の健康を保持するために必要な措置」について意見を聴かなければなりません。

また、後半の「会社が講じた面接指導実施後の措置」の具体的な内容とは、「就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数の減少等」です(安衛法第66条の8第5項)。

なお、高度プロフェッショナル制度適用者に対しての措置は、「職務内容の変更、有給休暇の付与、健康管理時間が短縮されるための配慮等」となります。

このように、面接指導の結果、会社が労働者に対して行った措置の内容も「健康情報等」として扱う必要があります。

面接指導実施後の措置の結果

⑦の「健康診断実施後の措置の結果」とありますが、これは単純に、労働者に対して行った作業の転換等の措置の結果と考えればよいでしょう。

⑧以降は次回に続きます。