【健康情報等の取扱規程】ひな形の「健康情報等」とは?社労士が徹底解説(3)

2019年4月から、従業員の健康情報を取り扱うすべての事業所に「健康情報等の取扱規程」の作成が義務付けられました。

同時に、厚生労働省から「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」が出され、ひな形が掲載されています。

しかし、このひな形では、どのような会社でも使えるように汎用性が広く作られており、ご自身の会社でどのようにカスタマイズしていいのか、判断が難しい条項を多く含んでいます。

また、ひな形の中には労働法令なども引用されており、非常に読みにくい内容にもなっています。

中でも、このひな形を使ってご自身の会社の規程を作ろうとした場合、最初に出てくる(第2条の別表1)「健康情報等」の具体的内容が実際どんなものを指しているかわりにくく、先に進まなくなってしまう方が多いのではないでしょうか?

この記事では、健康情報等の具体的内容に絞って、社労士が詳しく解説していく最終回です。 

参考:「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」はこちらからダウンロードできます(厚生労働省HP」

3回目の今回は、第2条の別表1の⑧から解説していきます。

ストレスチェックに関する情報

⑧~⑩は、ストレスチェックに関する情報です。

まず⑧が指すのは、会社が実施した心理的な負担の程度を把握するための検査、いわゆるストレスチェックの検査の結果です。

ストレスチェックの結果については、非常にセンシティブな内容であるため、ストレスチェックを実施した医師などは、労働者の同意なく会社に対して結果を提供できないことになっています(安衛法第66条の10第2項)。

ストレスチェックを行う場合、会社はあらかじめ社内規程を整備する必要があります。この規程の中で、実際にストレスチェックの事務を取り扱う人を「実施事務従事者」として指定することになっており、誰でもストレスチェックに関するデータを取り扱うことができないようにしています。

⑨は、ストレスチェックの結果、高ストレス者となった者に対し、面接指導を希望する者に対し、医師などが行った面接指導の結果を指しています。

⑩は、⑨で行った面接指導の結果、医師から聴取した意見と、それに応じて行った会社の措置の内容です。措置の内容とは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等です。

健康保持増進を図るための必要な措置

⑪にある安衛法第69条第1項では、労働者の健康保持増進を図るために必要な措置を継続的かつ計画的に実施することが事業者の努力義務として定められています。

具体的には、安衛法の次の条である第70条に基づき、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」というものが出ています。この指針をもとに、会社ごと実施する措置の過程で、入手した健康測定の結果や健康指導の内容も「健康情報等」となります。

労働者災害補償保険法の二次健康診断

⑫の労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険法)の第27条にある、二次健康診断です。二次健康診断とは、

二次健康診断とは、会社の定期健康診断など(一次健康診断といいます)の結果、次のすべての検査項目について、「異常の所見」があると診断されたときに、労災保険法の給付として受けることができるものです(すべてに異常所見がなくても産業医等の指示に基づき対象となる場合があります)。

  1. 血圧検査
  2. 血中脂質検査
  3. 血糖検査
  4. 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定

また、二次健康診断の内容とは、

  1. 空腹時血中脂質検査(コレステロール・中性脂肪など)
  2. 空腹時血糖値検査
  3. ヘモグロビンA₁c検査(一次健康診断で受検している場合は除く)
  4. 負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
  5. 頸部超音波検査(頸部エコー検査)
  6. 微量アルブミン尿検(一次健康診断の尿蛋白検査で、疑陽性(±)または弱陽性(+)の所見が認められた場合のみ)

となります。

この二次健康診断の内容も「健康情報等」として取り扱います。

治療と仕事の両立支援

⑬の「治療と仕事の両立支援」とは、厚労省から出されている「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に基づいているものです。

日本では、3人に1人の労働者が何らかの疾病を抱えながら仕事を続けていると言われている現在、職場において適切な就業上の措置や治療に対する配慮が行われるよう作成されたものです。

これに際し、労働者から提出された医師の意見書などの情報についても「健康情報等」となります。

健康相談とは

⑮と⑯の「健康相談」とは、産業医に対して労働者がする健康相談です。

産業医の業務内容は、安衛法第13条に「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。」と定められています。

そして、この「省令で定める事項」とは、安衛法施行規則第14条に「産業医及び産業歯科医の職務等」として、次のように定められています。つまり、次の9項目が産業医の業務内容になります。

  1. 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  2. 法第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項に規定する面接指導並びに法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  3. 法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  4. 作業環境の維持管理に関すること。
  5. 作業の管理に関すること。
  6. 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
  7. 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  8. 衛生教育に関すること。
  9. 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

上記のうち、7がここで言われている「健康相談」です。

産業医は、労働者の健康の保持増進を図るための措置として、労働者から健康相談を受けることが職務に含まれています。

ここで受けた健康相談を実施した有無及びその結果も「健康情報等」として取り扱うことになります。

その他

⑭の「通院状況等疾病管理のための情報」とは、例えば持病を抱える労働者が、会社の有休などを使って通院等をしている場合などに、労働者から得た通院状況などの情報です。

⑰の「職場復帰のための面談の結果」は、休職している労働者が職場復帰をする際に、復帰の可否等を判断するために行った、産業医等との面談の結果を指します。

⑱の「(上記のほか)産業保健業務従事者が労働者の健康管理等を通じて得た情報」ですが、産業保健業務従事者とは、会社の医師や看護師、保健師などの医療職や衛生管理者などです。このような人が労働者から得た情報は、やはり「健康情報等」として取扱う必要があります。

最後に、⑲の「任意に従業員から提供された本人の病歴、健康に関する情報」です。これについては、特に会社の総務職員や部下を持つ役職にある人は、様々な局面で従業員から病歴や健康に関する情報を任意に知らせれることは少なくありません。

そのように、例え本人から任意に知らされた情報であったとしても、「健康情報等」として取扱いには十分注意する必要があります。

まとめ

以上、3回に渡って健康情報等の取扱規程ひな形にある「健康情報等」について具体的な内容を詳しく説明してきました。

ひな形を利用して会社の規程を作成する場合は、この「健康情報等」の内容をふまえて、衛生委員会などで検討するとよいでしょう。