【同一労働同一賃金】パート・アルバイトの通勤手当はどうなるのか?3つのポイント

いよいよ、2021年4月から同一労働同一賃金の内容を盛り込んだ「パートタイム労働法」が中小企業にも適用されます。

このページでは、今回の適用によって、すべての会社がパート・アルバイトにも通勤手当を支給しなければならないのか、また、支給するにあたっての3つの注意点について、数百人のパートの労務管理をしてきた社会保険労務士がわかりやすく解説します。

パート・アルバイトの通勤手当は必ず払うのか?

そもそも通勤手当は、時間外手当のように法律上支払い義務がある手当ではありません。

つまり、就業規則などで支払う規定がなければ支払い義務はありませんので、正社員に支給していないのであれば、パート・アルバイト(契約社員・再任用社員・非常勤社員などを含む、以下同じ)にも支払う必要はありません。

しかし、今回の改正によって、「パート・アルバイト」という雇用形態の違いだけで正社員との不合理な待遇差を設けることは禁止されますので、正社員に通勤手当を支払っているのであれば、パート・アルバイトにも通勤手当を支払う必要が生じます。

通勤手当は、能力や経験によって支払われている手当ではなく、あくまでも通勤の費用を補助する目的であるからです。

参考:厚労省「同一賃金同一労働ガイドライン」

パート・アルバイトに通勤手当を支払う場合のポイント

では、パート・アルバイトに通勤手当を支払うことになった場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?3つのポイントをあげてみました。

不合理な待遇差とは

まずは、正社員との不合理な待遇差とならないようにすることです。

正社員の通勤手当の支払い基準は、それぞれの会社ごとに任意に定められています。重要なのは、正社員とパート・アルバイトとの間に不合理な待遇差をもうけない、ということです。

たとえば、

正社員には上限額がないのに、パートは月に3,000円が上限と決められている

正社員は一律10,000円/月だが、パートは一律5,000円/月(パートのほとんどが会社の近所に住んでいる、などの事実がない場合)

などは不合理な待遇差となります。

ただ、すべての待遇差が禁止されるわけではなく、合理的な説明・理由があれば違法とはなりません。

たとえば、

正社員

出勤日数:土日以外毎日(月平均21日)

通勤手当:一律1万円/月

パート

出勤日数:月10日

通勤手当:4,762円(1万円÷21日×10日=4,762円/月

というように、実際の出勤日数に合わせて支給する方法であれば、合理的な説明・理由がつくといえるでしょう。

距離に応じて支払う際の注意点

また、距離に応じて次のように通勤手当を支給する場合、距離の認定方法に注意が必要です。

たとえば、

距離通勤手当/日
2km未満支給しない
2~3km未満100円
3~4km未満118円
4~5km未満136円
・・・・・・

このような距離に応じた支払う場合は、次のように通勤距離を認定している会社が多いようです。

  1. まず、従業員に通勤経路と距離を申請してもらいます
  2. 本人が申請してきた経路に対し、会社側は合理的かつ最短な距離を計測し、認定します
  3. 会社が認定した距離に応じて通勤手当を支給します

このような方法を取った場合、あくまでも本人が申請して経路と距離が、会社で認定した経路と距離に差が生じる場合があります。そのため、通勤距離の計測方法を客観的・機械的な方法で計測しておく必要があります。

というのも、パートは近所の者同士で一緒に応募してくる場合が多く、またパート同士で給与明細を見せ合っている場合がよくあります。

そこで、お互いの通勤手当の額が異なった場合、「100mしか離れていないのに、なぜ通勤手当が違うのか?」などと苦情を言ってくることがよくあります。

のちのちトラブルにならないように、計測した結果を残しておくか、誰が測っても同じ結果になる方法(ネット地図の計測サービスなど)を取っておくと良いでしょう。

いずれにせよ、通勤手当の支給対象者が増えるため、会社の金銭的コストはもちろん、事務負担も増えますので、説明のつく範囲で無理なく運用できる支給規定を作成することをおすすめします。

通勤手当は全額非課税?

正社員の通勤手当も同様ですが、通勤手当を全額非課税にしてしまっていることはよくあります。

通勤手当は、月15万円までは非課税と理解されている場合が多いためです。

しかし、これは公共交通機関を使用している場合で、マイカー通勤を許可していて距離に応じて通勤手当を支払っている場合は、非課税額は異なりますので注意してください。

片道の通勤距離1か月当たりの限度額
2キロメートル未満(全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満12,900円
・・・・・・

参考:マイカー・自転車通勤者の通勤手当(国税庁ホームページ)

パート・アルバイトの通勤手当が実際勤務した日数に対して支払う場合、

たとえば、

給与支払期間:2021年3月1日~2021年3月31日

通勤距離:8km 通勤手当:245円/日 出勤日数:18日

3月分の通勤手当:245円×18日=4,410円

通勤手当(非課税対象額)4,200円 通勤手当(課税対象額)210円

となります。

最後に余談ですが、パート・アルバイトが社会保険に加入している場合には、標準報酬月額を計算する際には、非課税枠のような概念はなく、通勤手当は全額加えます。

遠方に住んでいて通勤手当が高額になる場合、社会保険料が上がることもありますので、会社・本人双方とも注意が必要です。

まとめ

  1. 正社員に通勤手当を支払っていないならば、パート・アルバイトにも支払う必要はない
  2. 不合理な待遇差は正社員に基準をそろえればよく、合理的な理由があれば待遇差はあってもよい
  3. 通勤手当は全額非課税ではない。通勤手当の支給により社会保険料が上がる場合もある