産業医の選び方と注意点、具体的探し方別メリット・デメリット
1事業所で、労働者が50人以上になると、産業医を選定する必要が生じます。その時、ご自身の会社に適切な産業医をどのように選んだらいいのでしょうか?
安易に産業医を選定してしまった場合、条件が合わなかったり、報酬が高額だったりと、後になって困ってしまうこともあります。
この記事では、ご自身の会社に合う産業医の選び方と注意点、具体的な探し方別メリット・デメリットについて、衛生管理者の資格を持つ社会保険労務士が解説します。
目次
産業医とは
それではまず、産業医とはどのような人で、どのようなことをしてくれるのでしょうか?具体的にみていきます。
医師なら誰でもできる?
産業医は、医師なら誰でもできるわけではありません。
産業医とは労働安全衛生法に定められた要件を備えている医師です。ここでは細かい説明は割愛しますが、産業医として名乗れるのは、医師の中でも一定の研修を受けたり資格を持ったものでなければなりません。
とはいえ、2018年の調査によると、日本における医師の数は約32万人で、産業医の資格を有しているのは10万人弱です。つまり、医師の1/3ほどが産業医の資格を持っており、産業医が特に少ないというわけではなさそうです。
産業医の仕事とは
では、産業医はどんなことをしてくれるのでしょうか?職務内容は、労働安全衛生規則に詳しく書いてあります。
同規則第14条第1項によると、産業医の職務は
- 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 法第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項に規定する面接指導並びに法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
- 作業環境の維持管理に関すること。
- 作業の管理に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
- 衛生教育に関すること。
- 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
この他、月に1回(条件によっては2月に1回)の職場巡視(同規則第15条)、衛生委員会の参加(同規則第23条、労働安全衛生法第18条等)などがあります。
ただし、医療行為は対象となりませんので、あくまでも「産業医の業務」として診察・治療などはしません(医師が医療職として在籍している場合や、健康診断や予防接種など、医師として契約した場合は別です)。
働き方改革で高まる重要性
産業医の役割は、2019年4月に施行させた働き方改革により、「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化され、益々重要視されるようになりました。
参考:厚生労働省 働き方改革関連法解説(労働安全衛生法/産業医・産業保健機能の強化関係)
また、2015年からはじまったストレスチェックも産業医の職務として入っています。
産業医の選び方と注意点
精神科の医師が良いのか
近年、労働者のメンタルヘルス不調が増え、産業医には精神科の医師が良いと言われることが多くなっています。
しかし、前に述べた産業医の職務を見てみると、産業医は職員のメンタルヘルスばかりを扱うわけではありません。
メンタル不調者の多い会社はともかく、例えば、会社の業務内容が有害物質を扱うような業種である場合、その業務特有の危険性や有害物質の取扱いなどに詳しい産業医を優先させることの方が重要です。
産業医の中には、ストレスチェックに関わりたがらない方もいるため、メンタル不調者が出た場合やストレスチェックのみで産業医とスポットで別に契約することを考えてみてもいいでしょう。一人の産業医が全ての職務を行う必要はありません。
最近、ストレスチェックをクラウドで(しかも廉価で)受けられるサービスも多く出ており、その付随契約として、ストレスチェックのみを担当してくれる産業医のサービスを追加でスポット契約できる場合もあります。
また、精神科の医師でなくても、メンタル関係に詳しい場合もあります。例えば、メンタル不調者の場合、最初に受診するのが胃腸科であることが多いため、胃腸科の医師でも精神疾患に詳しい場合もありますので、精神科の医師にこだわらず探してみるのがいいでしょう。
産業医を選定する時の注意点
産業医を選定したにもかかわらず、一番困るのは産業医が本来の職務を果たさず、いわゆる「名義貸し」状態になっている場合です。
このような場合に多いのが、月(もしくは2月)に1回の職場の巡視をしない、衛生委員会に出席しない、もしくはやりたいことだけやる(健康診断の結果だけ見るなど)などです。最悪の場合は、報酬だけもらって何もかかわらないという場合もありますが、もちろん法令違反になります。
このような「名義貸し」状態を作らないためには、必ず契約書を交わし、契約書には職務内容を具体的に書き込み、双方で確認することが重要です。
どこで産業医を見つけるか
産業医の探し方は、つぎのようなものがあります。
- 自分で見つけて直接お願いする
- 公的機関に相談する
- 知り合いから紹介を受ける
- 仲介業者を利用する
それぞれにメリットデメリットがありますので、詳しくみていきたいと思います。
自分で見つけて直接お願いする
知っている医師(知人やご自身のかかりつけ医など)、または何らかの形で会社に関わっている医師で、産業医の資格を持っている方がいれば、一つの選択肢として考えてみてもいいでしょう。
医師の人となり、会社の事業内容の理解度、業種の危険性など、十分に理解いただける医師であれば、安心して依頼できるのではないでしょうか?
開業医であれば、院内に産業医であることの認定証のようなものが掲示してあることもあります。
ただ、知っている相手であると、報酬の交渉など、中々具体的なことは言い出せないというデメリットもあります。そのあたりをドライに交渉できるようでしたらおすすめです。
公的機関に相談する
地域の医師会では、産業医を紹介してくれるところがあります。
依頼する流れとしては、医師会に条件を伝え、医師会がその条件を提示して産業医を募集し、手を上げてきた産業医の中から、会社が選ぶという方法です。
医師会によっては、産業医と会社及び医師会の三者で契約書を交わすようなこともあり、深く介入してくれる場合もあるため、安心できる点でもあります。
ただし、全く紹介をしていない医師会もありますので、事前に確認が必要です。
一方、厚労省の出先機関が運営する産業保健総合支援センターでも産業医を紹介してくれる場合もあります(地域によっては、医師会や労働基準監督署が兼ねているセンターもあります)。
産業保健総合支援センターは、各都道府県に一つずつあります。
参考:各都道府県の産業保健総合支援センターの一覧はこちらから見ることができます。
産業保健総合支援センターは、 さらに地域ごとに、地域産業保健センターが設けられており、会社近隣のセンターで対応してもらえるのが利点です。
もともと、地域産業保健センターは産業医を選定する必要のない50人未満の事業所に対する保健指導を行っている機関です。50人未満の事業所でないと紹介してくれない場合もありますので、事前に確認してみましょう。
余談ですが、同センターは労働安全衛生法で定められた保健指導などの産業保健サービスを無料で提供していますので、50人未満の事業所の方は、積極的に利用されてみてはいかがでしょうか。
知り合いから紹介を受ける
知り合いに紹介してもらう、という方法がありますが、紹介者が産業医の役割や業務を熟知していない場合は、避けるべきでしょう。
また、産業医を探していることが伝わると、産業医を紹介されることもあります。
この場合、「人ありき」になってしまうため、条件の交渉が難しくなります。わざわざ紹介してもらうので、産業医自身が「名義貸し」だと思い込む場合もあります。
後々トラブルになった時も、紹介者の顔を潰すことになりかねず契約解除ができないなど、デメリットの方が大きくなることが予想されます。
それぞれメリットデメリットありますが、この場合は紹介者の顔を立てることはできますが、その他はデメリットが多く、あまりお勧めしません。
仲介業者を利用する
最近、ネットで「産業医」と検索すると、多くの仲介業者の広告が出てきます。
仲介業者を利用することのメリットは、こちらの条件を伝えやすい、他と比較ができるということです。
デメリットは、地方はあまり充実していない場合が多いという点です。産業医の職務の中には、月(条件によっては2月)に1回の職場巡視や衛生委員会への参加があります。つまり、産業医には頻繁に会社に来てもらうことになるわけですが、それを考慮に入れると、仲介業者を利用して遠方の産業医に依頼する、というのは現実的でないように思えます。
また、あくまでも仲介業者ですので仲介料を考えると、産業医の報酬がその分割高になる場合もあります。
仲介業者は数多くありますので、一つに絞らず、実績や対応、料金など比較し、慎重に選ぶ必要があります。それをクリアすれば、選択肢の一つにしてもいいのではないでしょうか。
まとめ
- 産業医とは一定の要件を備えた医師でなければならない
- 精神科の医師にこだわる必要はない
- 産業医と契約する場合には、職務内容を双方で確認の上、契約書を交わす
- 探し方はいくつもあるので、メリット・デメリットを考慮したうえで、自身の会社に合った産業医を探すことが重要