【健康情報等の取扱規程】ひな形の「健康情報等」とは?社労士が徹底解説(1)

2019年4月から、従業員の健康情報を取り扱うすべての事業所に「健康情報等の取扱規程」の作成が義務付けられました。

同時に、厚生労働省から「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」が出され、ひな形が掲載されています。

しかし、このひな形では、どのような会社でも使えるように汎用性が広く作られており、ご自身の会社でどのようにカスタマイズしていいのか、判断が難しい条項を多く含んでいます。

また、ひな形の中には労働法令なども引用されており、非常に読みにくい内容にもなっています。

中でも、このひな形を使ってご自身の会社の規程を作ろうとした場合、最初に出てくる(第2条の別表1)「健康情報等」の具体的内容が実際どんなものを指しているかわりにくく、先に進まなくなってしまう方が多いのではないでしょうか?

この記事では、第一種衛生管理者の資格を持ち、実際に企業の健康情報取扱規程を作成してきた社会保険労務士が、健康情報等の具体的内容に絞り、詳しく解説していきます。 

参考:「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」はこちらからダウンロードできます(厚生労働省HP」

健康情報等の取扱規程ひな形の「健康情報等」とは

健康情報等の取扱規程の「健康情報等」とは、第2条にある別表1に出てくる用語です。

この規程を作成するにあたって、「健康情報等」が具体的に何を指しているのか定義の部分にあたります。にもかかわらず、労働法令の引用が入り組んでおり、分かりにくくなっています。

それでは早速、ひな形の中身を見ていきます。

第2条の別表1とは、ひな形の最後(手引きの32ページ)に出てきます。

健康情報等の具体例

次は、①から⑲まで順番に見ていきたいと思います。

作業環境測定とは

①は「安衛法第65条の2第1項の規定に基づき、会社が作業環境測定の結果の評価に基づいて、従業員の健康を保持するため必要があると認めたときに実施した健康診断の結果」とあります。

最初に「労衛法」とは「労働安全衛生法」を指しています。

安衛法第65条の2第1項とは、会社が作業環境測定をして、従業員の健康診断が必要だと思って行った健康診断の結果、ということです。

つまり、「作業環境測定」を行っている会社でなければ、①と①-2は該当しない項目です。

参考に、作業環境測定をする必要がある会社かどうかですが、下記の事業場が対象になります。(さらに詳しく知りたい方は、労働安全衛生法施行令第21条を参照してください)

  1. 土石、岩石、鉱物、金属又は炭素の粉じんを著しく発散する屋内作業場
  2. 暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場
  3. 著しい騒音を発する屋内作業場
  4. 坑内の作業場で一定のもの
  5. 中央管理方式の空気調和設備を設けている建築物の室で事務所の用に供されるもの
  6. 放射線業務を行う作業場
  7. 特定化学物質(第1類物質及び第2類物質)を製造し、又は取り扱う屋内作業場等及び石綿等を取り扱い、又は試験研究のために製造する屋内作業場
  8. 一定の鉛作業を行う屋内作業場
  9. 酸素欠乏危険作業場所において作業を行う場合の当該作業場
  10. 有機溶剤(第1種有機溶剤等及び第2種有機溶剤)を製造し、又は取り扱う屋内作業場

安衛法の健康診断とは

②は「安衛法第66条の第1項から第4項までの規定に基づき会社が実施した健康診断の結果並びに安衛法第66条第5項及び第66条の2の規定に基づき従業員から提出された健康診断の結果」とあります。

前半の「第66条の第1項から第4項」の健康診断とは、年に1度の定期健康診断(雇い入れ健診を含みます)、半年ごとに行う特殊健康診断、労働衛生指導医の意見に基づき臨時に行った健康診断の結果です。

簡単に言えば、従業員の健康診断の結果です。

「第66条第5項」は会社が実施する定期健康診断を受ける代わりに、従業員が自分で受診した健康診断の結果を提出したものです。

「第66条の2」は、深夜業(原則22時~5時まで)をする従業員が自主的に受診し、提出してきた健康診断の結果です。

いずれにせよ、ほとんどの場合「従業員を雇い入れる時に行った健康診断・年に1度の会社が行う健康診断・半年に1度の特殊健康診断・従業員が自主的に提出してきた健康診断の結果」と認識していれば良いでしょう。

ちなみに、特殊健康診断を行う必要がある業務は、

  1. 高気圧業務
  2. 放射線業務
  3. 特定化学物質業務
  4. 石綿業務
  5. 鉛業務
  6. 四アルキル鉛業務
  7. 有機溶剤業務

です(さらに詳しく知りたい方は、労働安全衛生法施行令第22条を参照してください)。

②-1は「上記の健康診断を実施する際、当社が追加して行う健康診断による健康診断の結果」とあります。そもそも、定期健康診断の検査項目は法律で決まっています(下記参照)が、会社独自で検査項目を追加している場合などです。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査

たとえば、従業員の平均年齢が高いので、骨粗しょう症の検査を追加している、といった場合です。

このような、法律で決められた検査項目以外で、会社が把握した従業員の情報も「健康情報等」に含まれます。

②-2は「上記の健康診断の受診・未受診の情報」とあります。

「健康情報等」では健康診断の結果だけではなく、従業員が健康診断を受診したか、していないか、までも健康情報等の内容に含まれることになります。見落とされがちですが、大変重要ですので注意が必要です。

以上、②と②-1・②-2について見てきましたが、これについてはいずれの会社も当てはまる項目となっています。

「66条2・3」(有害な業務による特殊健康診断)と「66条の2」(深夜業)については、該当する事業所もしくは従業員がない場合は、省いてしまってもよいでしょう。

健康診断実施後の措置とは

③は「安衛法第66条の4の規定に基づき会社が医師又は歯科医師から聴取した意見及び第66条の5第1項の規定に基づき会社が講じた健康診断実施後の措置の内容」です。

「健康診断実施後の措置」ですが安衛法では、②で行った健康診断の結果について、会社は医師などから意見をもらわなければならないことになっています。

これは、異常の所見があった場合に限ってのことです。健康診断の結果で、医師の所見で再検査などの異常の所見があったものに関してです。

50人以上の事業所では、産業医を定める必要がありますので、産業医から意見を聴くことになっていると思います。産業医がいない事業所では、地域産業保健センターを利用して、産業医の役割を果たしてもらうことができます。

この結果についても、「健康情報等」に含まれます。これについても、すべての会社が該当する項目になります。

④以降は次回に続きます。